37℃のグラビティ
「一緒に泳ぐのはナシでも、海の景色を満喫するくらいはいいんじゃね? せっかく来たんだし」


言って歩き出した新海の背中を、戸惑いながらも追いかけた。


ビーチパラソルの下にレジャーシートを敷き終わると、新海は飲み物を買いに行くと言い、残されたアタシは、その場にひとり体育座りをして、目の前に広がる白い砂浜とスカイブルーの海を見ていた。


そんなアタシの前に差し出された、ストローのささった紙コップ。


「コーラだけどいい?」


「……ありがと」


ぎこちないお礼の後、遠慮がちにそれを受け取ると、アタシから少し離れて、新海がシートに座った。


「そういえば北川って、彼氏いねぇの?」


いきなり何を思ったのか、新海が訊く。


「なんで?」


「てっきり彼氏いるのかと思ってたけど、さっきの例え話で『アタシに彼氏がいたとして』って言ってたから」


「その言葉通りだけど?」


「彼氏作んねぇの?」


「作んないっていうか……恋愛って、何かと面倒くさいし」


アタシの恋愛事情をやたらと訊いてくる新海に、ちょっと苛々しながら、そんな言葉を放った。
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