37℃のグラビティ
「ところで、家まで何で帰る?」


突然、思い立った様に新海に訊かれ、アタシは時計を確認しながら答えた。


「もう電車動いてるし、電車で帰ろっかな」


「駅まで歩くのもなんだし、タクシーで帰れよ」


そう言って新海は、タクシーチケットをアタシに差し出す。


「チケットなら、アタシも持ってるからいいよ」


「呼びだしたの俺だし、これ使えって」


「じゃあ、遠慮なくもらっとく。ありがと」


「おう。タクシーなら、通り出たとこで拾えるから」


そんな会話をして、アタシは新海のマンションをあとにした。


マンションの外に出た途端、朝の光はやけに眩しくて、頬に刺す風が痛い。


アタシはそんな朝に、これまでの出来事を振り返っていた。


ジグソーパズルに例えて言うなら、最後のピースがそこにあるのに、それをはめて完成させる事が出来ない様な日々。


その最後のピースをはめ込んでもいいの……? もう何かに遠慮しなくてもいいの……? そんな自問ばかりが浮かんで消える。


これからどうしようとか、どうしたいとか、そんなのわからないけど……アタシは新海を好きになっても……いいの?


この時のアタシは、自分勝手な気持ちばかりで、とても大切な事を忘れてしまっていた。


バラバラになってしまった、もう一枚の心のパズル。


そんな新海の気持ちを、誰よりアタシが知っていたはずなのに……
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