身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「その様子だと、成さんにインスピレーション感じなかったの? 礼儀も正しいし素敵な人だったのに」

 今にも盛大なため息をつかんとばかりに、視線から失望の色を浮かべている。
 あからさまに肩を落とされると、なぜか悪い気がしてしまう。

「いや……。まあ、いい人だったよね」

 箸を止めてたどたどしく言えば、今度は口を尖らせて返される。

「そうよね。梓が好きになっても、お相手にその気がなければね」
「ナチュラルにひどいこと言うよね」
「だって、実際に会ったら写真以上にかっこよかったでしょ? そのうえ性格も良くて肩書きもいいなんて引く手あまた。選り取り見取りよ。絶対に梓を選ばなければならない理由はないわよねえ」

 親に真顔でけなされても至極正論なため、私は「確かに」と頷いた。
 すると、母がジッと私を見つめてくる。

「もちろん、私の娘だもの。梓だって魅力はあるわよ。あとは相性よね。梓のいいところも悪いところも愛してくれるかどうか」

 魅力? そういうのってなかなか自分ではわからない部分だ。

 彼は私のなにかに惹かれてあんなことを言ったのかな……。いや、それはないか。

 だって小一時間程度の顔を合わせでなにがわかるって言うのよ。つまり、ほんのちょっと興味を持ってくれたとか、そんな感じ?

 待って。百歩譲ってそうだとして、それで縁談進めちゃうものかなあ? ますますわからない。

「あら? ごめんね梓。そこまで深刻にならなくても……」
「ベ、別に深刻になんかなってないし!」

 どうやら謎に捕われるあまり、相当難しい表情でもしていたらしい。
 私は朝食をパパッと食べ終えて席を立った。

「ごちそうさま! 私、急いで準備して行かなきゃ」

 かけ時計を見て、バタバタと支度を終わらせる。そして、お弁当を持って家を出た。
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