花の咲く頃、散る頃に。
「………きみは、いい花を咲かせたんだね」
「それなりには」
即答できるほどには、努力は続けてきたのだ。
すると、
「きみが満開なら、わたしはもう葉桜になるけど?」
あの日と同じように、自分を葉桜になぞらえる彼女。
ちらりと視線を逸らした先には、もう散ってしまった桜の樹。
葉桜なんて、オレとの年の差を指して言ってるのだろうけど、そんなの、はじめっから分かっていた話だ。
あの日、ここではじめて出会ったときから。
オレは握った手をグイッと引き寄せた。
そしてそのまま、はじめてのキスをしたかったのに――――
「こら。ここは神聖な学校でしょ」
感情よりも理性を重んじる彼女の、その細い指に、唇を止められてしまう。
けれど、そのあと、桜色をもう少し朱に寄せたような頬が、ふわりと緩んだ。
―――――その瞬間、オレ達の境界線が消えていく。
長い間抑えていた気持ちが自由を得て、彼女へとまっすぐに向かう。
オレはもうそれを隠すつもりもなくて、オレのキスに ”待て” をかけた彼女の指先に、自分の指を絡ませた。これ以上ないほどの想いを込めて。
やがて、彼女もオレの指を握り返してくれて。
オレの気持ちに応えてくれるようになって。
オレはそんな彼女に、どうしてもひとこと伝えたくなったんだ。
あの日、うやむやに誤魔化した言葉を、もう一度…………
「あなたが葉桜なら、オレは満開の桜なんか目もくれないのに………」
葉桜(完)