大胆不敵な魔女様は、悪役令嬢も、疑恋人だってできちゃうんです。

◇おまけの出張このたび








目の前でぽかんと口を開け、目をぱちぱちと瞬いている少女は、最近夫を持ったばかりだ。

つい先頃まで見た目の通りに、儚い命の火が消えようとしていたが、もうその心配もなくなった。

この場に一緒にいる大陸一の魔術師のおかげで。

「…………今のお館様のはなし?」
「そうだな……こんなに詳しくて長く他人の話はしないぞ?」
「えっと……その騎士様は? 今どこに? わたし、会ったことないです」
「この奥の山に埋葬した」
「は?! え?! 亡くなったんですか?!」
「ああ……しぶとかったぞ、八十過ぎまで生きた」
「あれっ?! おや……お館様……何歳?」
「ずいぶん前に数えるのやめたと言ったろ」
「わあぁぁ……さすが大魔女様。いつまでもお美しい」
「まぁな」

兄のように慕っていた男の妻に、なるにはなったが、本人は心の持って行き場に困っていた。

表しようのない不安の、何か解決の糸口を探して、この魔女の部屋までやってきた。
何気ない相談ごとからいつの間にか昔の話になってのこの状況だ。

「お館様の騎士様は、この国でしたかったことがあったんですよね? それはなんですか?」
「うん? お前の夫と一緒だよ、かわいいリアン」
「アドニスと?」
「竜騎士になりたかったんだ」
「ほほぅ……なったの?!」
「なった……私と同じく大陸一と冠がついたぞ?」
「大陸一の竜騎士……カイル・グラハム・マクスウィニィ!!」
「は!……よく知ってるな」
「竜乗りなら常識!!」
「今思うとアレは大したことないぞ? お前の夫の方が竜乗りとしては上だろうな」
「そんなバカな!!」
「おいおい、わんちゃんが聞いたら泣くぞ……それで良いんだリアン……技術は上がっていくものだ。そうでないとな」
「ええええ? 伝説なのに……」
「こうやってお前たちに語ってもらえたなら文句なんか出ないさ」
「おおお…………格好良い……」
「当然だ」
「お館様は騎士様が今も大好き?」
「ふふ……そうだな……お前は?」
「……うーん……大好き」
「なんだそのうーんは」
「お館様みたいにずっと大好きでいられるかなぁ……って」
「はは……別にずっと大好きな訳じゃなかったぞ? 腹が立つ時もあったし、けんかもしたしな……良い時ばかりじゃないさ」
「…………そうか」
「時には忍耐を試されるが、いつも心に正直でいれば良い」
「…………はい」
「そうだ」

しなやかに手を振ると、その白い手の中にはいつの間にか小さなものが握られていた。

「お前にこれをやろう」

ころりと手渡されたのは小さな硝子細工、小鳥が丸っこく蹲った姿だった。

「……これ!」
「うん……お前にぴったりだろう? 私のかわいい小鳥」
「もらえません!! だってこれ!!」
「祝いだと思ってとっとけ」
「でも!!」
「髪飾りはな……他の者にやった……意匠は合うだろうが、銀の細工は色の薄いお前の髪には合わないからな」
「これ……大事なものなのに……」
「ものはものだ……大事なのは渡された時の想いの方だよ」
「おもい……」
「さぁ、リアン。私のかわいい小鳥。お前に想いを渡そう…………『どうか幸せに』」
「お……おやかたさまぁ……」
「一生付いて来る気になったか?」
「前からその気です……」
「よしよし。いい子だ、かわいいな」

少女のふわふわとした髪を撫でるのは心地良い。
彼女の夫がしょっちゅう握っている理由がよく分かる。

「さっさとお披露目を済ませて帰ってこいよ? ずっと留守番じゃ、我慢にも限界がある。……今度は久しぶりに東の砂漠が見たいんだ」
「さくっとやって帰ってきます!……さばくかぁ……砂漠?! 行ってみたい!!」
「一緒に連れて行ってやりたいが、流石に新妻を連れ出したらわんちゃんに噛みつかれるな」
「砂漠……見たい」
「そのうちな」
「ほんと?! 約束?」
「本当、約束だ」
「やったーー!!」

お館様大好きと、抱きついてくるのを片腕で抱きしめ返して、そのまま部屋を出るように促した。

少女は跳ねるように軽やかに走っていく。

ついこの間まで死の淵をゆっくりと歩んでいたのに、今は軽やかに舞う小鳥のようだ。

「もう平気か?」
「はい! お館様、お話ありがとうございました!! 元気出ました!!」

くるりと、ダンスのように回って部屋を出て行く。

賑やかな後の静けさに、大陸一の魔術師はひとつ息を吐いた。



「久しぶりに思い出した……たまには話さないとな……思い出の中で美化が進んでるぞ……カイルめ……」



久しぶりに何度も名を呼んで、締め付けられるような胸の中で、私の唯一人から返事が聞こえるような気がした。










*********************








ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


実は前話で本編の方は終わっていたのでした。
(うっかりそのお知らせを付け足すのを忘れておりました、すみません)



そして今回のこのおまけですが。

以前に連載しておりました

『転生したら病弱乙女、このたびは竜騎士さまに溺愛されることになりました。』

の主人公リアンがゲスト出演しております。

『このたび』の登場人物、誰よりも不遜で大陸一の魔女ことお館様のお名前はマリオンと言います、どうぞよろしく!!



ということでして。

『このたび』を未読の方にはぜひ読んでいただけたらと思います。




さあさて。

ここまでお付き合いいただきまして、本当にありがとうございます。

楽しんでいただけましたでしょうか。
もしそうであれば幸いです。


今後の予定は未定です。が。
ファン登録して下さった方のために、この物語のおまけの小話をお出ししようかなと考えております。

『マーレイ領最後にして最強の女主人、ジュリエットのおはなし』



『我らが繊細純情奥手ボーイ(ボーイ?)ビクターの色恋沙汰のおはなし』

です。

ファン登録された方向けにお出ししますので、興味のある方は、ぜひ登録お願いします。


ではでは。
最後まで本当にありがとうございます!!
そしてこれからもご愛顧賜りますよう、よろしくお願い申し上げます!!




ヲトオ シゲル





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