それでも、恋

そんな、彼女を取り巻く汚い雑音なんて、まるで耳に届いていない顔をして。


「折口くんって、犬飼ってる?」


宇田さんは今日も、綺麗な光に包まれている。そんな彼女の質問に、尻尾をぱたぱた振った折口くんが「え、なんでわかるの!」と返した。


「折口くんが犬っぽいから」

「宇田さん、犬好き?」

「あんま」


宇田さん、あんまり犬は好きじゃないのか。子犬らしく耳を垂らして残念がる折口くんに、ざまあみろ、と心の中で悪態を投げつけた。

だけど、しょせん、心の中。折口くんは怖いもの知らずの馬鹿なので、首を傾げてさらにたずねた。


「じゃあ、犬っぽい人間は?」

「知らないけど、折口くんのことはふつうに好きだよ」

「ほんと?やった、俺も宇田さんすき」


折口くんって、ぜんぶ計算なんじゃないかと疑いたくなる。ときが、ある。天然ってこわい。客観的にみているこちらからすれば、天然と天然と殺し合いみたいな会話だ。

こんなふうに、宇田さんのことが好きだと言える折口くんがうらやましい。誰からも愛される彼は、じぶんが拒絶されることなど少しも思わずに、言葉を発する。

それこそが、彼の愛される魅力なのだけど、気になる女の子のそばで発揮されちゃうと、こっちは気が気ではない。

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