若女将の見初められ婚
極上の幸せ

四年後……

*◇*◇*


お店の扉を開けようとしたら、出てくるお客様とぶつかりそうになった。

「すみません!」慌てて謝る。

「おぉ、若旦那か。邪魔してたで」
馴染みのお客様だ。

「おおきに。ありがとさんでした!」
店の中から可愛い声がした。

「梨乃ちゃんは、ほんまにかわいらしいなぁ。客はみんな、懐いてもらおうと思って必死で菓子で釣る。争奪戦や」

お客様は、目尻を下げてハハハと笑う。

「騒がしくてすみませんでした」
苦笑いしながら、頭を掻いた。

お客様を丁寧に見送り、店の中に入った。


「おとうしゃん!」
赤い玉が転がるように飛び付いてくる。娘の梨乃(りの)だ。

「ただいま、梨乃」
ヒョイと抱き上げる。

「お店の中は走ったらあかんと言われてるやろ」

「かんにん」
俺の首もとに顔を埋めるようにして謝った。

梨乃はなぜか親父の言葉を真似て、俺たちも使わないような古風な関西言葉を使う。

真似られる親父はデレデレで、お客様にも可愛いと評判がいいが。

俺としては、可愛くて厳しくできないのが目下の悩みで、志乃に『ちゃんと叱ってください』と怒られるのがつらい。

注意した後に、可愛く『かんにん』などと言う娘に厳しくできる親父がいたら、会ってみたいものだ。

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