若女将の見初められ婚

しの君不在の中、撮影は進む。

だが、撮り終わった写真のチェックは、しの君がしないといけない。
早く帰ってきてほしい、という空気になってきた頃、しの君がモデルさんを連れて帰ってきた。

黒いストレートの長い髪、しの君の横に並んでも釣り合いの取れる高い身長、目鼻立ちのハッキリとした美しい顔。

やっぱり。理沙さんだ。

ずーんと気持ちが沈んでゆく。
でも、仕事はちゃんとしなければならない。

「本日は急なお願いをしてしまって、申し訳ありません。よろしくお願いいたします」

若女将として挨拶をする。

頭を上げると、理沙さんは私をじーっと見ていた。

「若女将の志乃さんね」

クスッと笑う。感じ悪い。

そうですけど、何か?といいたいところだが、グッと我慢する。

女将さんが剣呑とした空気を察したのか、スッと前に出てその場をうまくまとめてくれた。

「本当に急なことですみません。早速ですが、着付けさせてもらえますか?」

こういう空気の読み方が、女将さんは素晴らしい。私もしっかり仕事をしようと、頬をパシッと叩き、気合いを入れた。

その後は、ひたすら雑用や着付けをこなす。中でも、細々とした仕事は若女将の重要な仕事だ。

お昼ご飯の仕出し弁当が届くので受け取り、家族と頼朝先生たちには、お弁当につける汁物も用意する。

モデルさんやスタッフさんたちには、ちょっとした休憩の時にお茶を入れ、お茶菓子も用意した。

そうやってバタバタしてる方が気が紛れてちょうどいい。

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