若女将の見初められ婚
失態の内訳

*◇*◇*


「んっ」

少し頭を動かすと、ズキッと頭痛がした。

頭痛い。
ゆっくりと起き上がる。

えっ、ここどこ?

寝ているのは和室だが、見慣れた我が家の部屋ではなかった。服は昨日のままだ。

布団から抜け出し、部屋の外に出て気づいた。

女将さんたちの住む別宅や…

急ぎ足で、リビングへと向かった。

「おはよう。志乃ちゃん大丈夫?」にこやかに女将さんに聞かれた。

私、何をしでかしてしまった?

「すみません。私、何がどうなってここにいるのか、さっぱり覚えてなくて」

痛む頭を押さえながら答える。

「疲れてたのに、たくさん飲ませたからなぁ。ごめんやで。気持ち悪くないか?」

「大丈夫です。ホンマニ スミマセン…」最後は小声になった。

「まあ座り。二日酔いには、しじみの味噌汁!」

女将さんが湯気の立つお椀をテーブルに置いてくれた。

ヨロヨロと椅子に座り、一口飲む。

「あぁ、美味しいです…」

胃に沁みわたる優しい味に、しみじみと吐息を漏らした。

「昨日は、どうやってここに戻ってきたんでしょう?」

恐る恐る聞いてみた。

覚えていないが、ちゃんと歩いて帰ってきたと信じたい。旦那さんが担いでくれてたらどうしよう…

「倉木君は覚えてる?」

「はい」

倉木さんとペラペラ話したのは覚えてる。内容まで詳しくは覚えてないけど。

気安く話してしまったよなぁ。
くらき百貨店の副社長さんやのに。

「倉木君が自分の車呼んで、志乃ちゃんを抱いて乗ってくれたんよ」

「!?」
味噌汁が気管に入ってむせる。

「志乃ちゃん!大丈夫?」
女将さんが飛んできて背中を擦ってくれる。

倉木さんが抱いて車に乗ってくれた?

ヤバいヤバい!
それは想定外の非常識さ…
どうすんのよ。しの君のお友だちやのに。

「ど、どうしましょう。まさかそんな失礼なことしてたとは、思いませんでした」もう半泣きだ。

「いや、大丈夫。倉木君は昔から優しいいい子やったんよ。あれくらいのことは絶対気にしてないから」
女将さんはカラカラと笑った。

もう二度と会える気がしない。
くらき百貨店にも当分行くのを止めよう…

しかも、外泊してしまった!
これって無断外泊になる?

「あのぉ。私、仁さんには連絡入れてたでしょうか?」

自分の行動を覚えてないから、女将さんに聞くしかない。

「仁からは電話があったから、うちから言っといた。今日は一緒にお店に行こか」

今日もお店は普通に営業する。
桜の季節はお客様が増えるので、休むことはできない。

昨日の私たちは休日出勤みたいなものだが、しょうがなかった。

お味噌汁をいただいた後、しの君からの電話の着歴とメッセージを確認する。

迎えに行くって言ってくれてたのに、怒ってるかな。

お店を出るときには、しの君に怒ってたのに、一気に形勢が逆転してしまった。

「外泊してすみませんでした」

とりあえずメッセージを送る。

あぁ、当分お酒は止めよう…


旦那さんも起きてきたので、ひたすら謝る。

「疲れてたのに、たくさん飲ませたからなぁ。登代子たちが悪い。堪忍やで」

優しすぎる、お義父様。
酔っ払った嫁の世話なんてさせて、本当に申し訳ございませんでした。
心の中では土下座状態。

シャワーをお借りし、女将さんの着物を着させてもらう。いつもは自分で着るが、今日は女将さんが着付けてくれた。

「こうして娘に着物を着せるのが夢やったのよ」

女将さんは感慨深そうに言いながら、帯を絞めていく。

「もし本当にお嫁に行くことになっても、うちはいつまでも志乃ちゃんのお母さんやから!」

泣きそうに女将さんは言うが、意味がわからない。

私は既に嫁に来てますが。

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