若女将の見初められ婚
親のありがたみ

*◇*◇*


朝起きると、しの君はもう起きていた。昨日、かなり遅く帰った筈なのに…

「おはよう、しの君。ちゃんと寝た?」

昨日の今日で、まだ気まずいが、体調が悪くないか気になる。

「ちゃんと寝たぞ」

少しだけ微笑みながら答えてくれた。

「志乃、昨日は悪かった。嫌な思いをさせたな。今日の夜はゆっくり話がしたい」

真面目な顔でこちらを伺う。

私はこくっと頷いた。


二人で店に出たものの、女将さんはぎくしゃくしている私たちに気づいたらしい。

「志乃ちゃん、『たちばな』さんに届け物してきて」

肩をボンと叩かれた。

女将さんは、お得意様に頂き物をすると、よく「たちばな」にお裾分けをしてくれる。

気兼ねなく、実家に帰れるようにとの配慮だ。本当にありがたい。

「お昼ご飯は、お母さんたちと食べておいで」と笑顔で送り出してくれた。

届け物は、地酒とお饅頭だった。温泉に行ってきたというお客様に頂いたお土産だ。

どちらも、両親の好きなもの。喜んでもらえるだろう。

お昼ご飯を食べて来ていいと言われているので、道中の総菜屋さんでお弁当を買う。

ここは、いわゆる「おばんざい」の店で、手作りのおかずを好きに組み合わせてお弁当にすることができる。

青菜の白和え、サワラの西京焼き、お煮しめ、だし巻き玉子などを選び、ご飯はかやくご飯にした。

実家への慣れた道を歩いていると、だんだん気持ちが落ち着いていく。

同じ東山でも「いわくら」の方が観光地に近い。実家辺りの人気の少ない通りは、今の自分にはちょうどよかった。

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