若女将の見初められ婚

*◇*◇*


昨日からいろんなことがありすぎた。苦行の飲み会から丸一日なんて、嘘のようだ。

今日は二人でゆっくり話そうと決めていたので、夕食とお風呂は手早く済ませた。

暖かいルイボスティーを入れて、ソファに落ち着く。


しの君と顔を見合せる。
こんな風に顔を見たのは久しぶりかも。
東京に出張に行ったのが四日前。
帰ってきた昨日があの騒動だ。

しの君の手が、私の頬を覆う。
温かい私の大好きな手だ。

「志乃、昨日は本当に悪かった。
嫌な思いをたくさんさせたな。許してくれ」

神妙な面持ちで、見つめられた。

「理沙のモデルの件は、ちゃんと謝礼を払って線引きをすべきやった。公私を曖昧にしたのは、俺が甘かったとしか言いようがない。二度と個人的は会わん。信じてくれ」

誓いを示すように、そっと唇にキスを落とした。

「理沙に、俺たちの結婚が政略結婚やと言われたそうやな。
それは絶対に違う。実は、内緒にしてた話が一つある。それを聞いてほしい」

ストーカーみたいやから言われへんかったと、恥ずかしそうに、藤枝先生の華道教室の発表会の話をしてくれた。

誰にも見られへんように、苺大福を食べ切ったと思ってたのに。あの一部始終を見られていたと知って、こっちの方こそ恥ずかしい。

「あの発表会で志乃を見かけて、どうしても結婚したいと思った。だから、『たちばな』に業務提携の話を持ちかけたんや」

たった一度会っただけ。

何が、しの君の心に響いたのだろうか。でも、こういうのを『運命の巡り合わせ』というのかもしれない。

私が再会したその場で結婚を決めたように…


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