LOVEPAIN⑥
「成瀬さん、いいんですか?
本当にこのまま芽衣子さんと別れても!」


思わず、横にいる成瀬のスーツの胸ぐら辺りを両手で掴んでしまう。


成瀬は驚いたように、私を見ている。



「いいも何も、お前芽衣子の話聞いてなかったのかよ?」



「聞いてました。
聞いてたから、言ってるんですよ!

だって、成瀬さん芽衣子さんの事けっこう好きですよね?
もし私にまだ気持ちが有ったとしても、成瀬さん芽衣子さんに本気だったじゃないですか!
なのに、なんでこんな簡単に手放すんですか?」


成瀬はスーツを掴んでいる私の手を、
その両手で掴み振りほどく。


「簡単じゃない。
俺が中途半端で芽衣子を傷付けている事だってずっと気付いていたし。
それに、芽衣子が自分の両親に俺の仕事の事を隠しているのも、気付いていた。
きっと、芽衣子は俺では幸せにしてやれないだろうって思ってた。
だから、もし芽衣子から別れたいって言ったら、
俺は何も言わず頷こうと決めていたんだ」


「でも…」


でも、本当にこんな形で二人は別れていいのだろうか?


もし、成瀬がさっきの場で芽衣子さんを引き留める事を言えば、
芽衣子さんはさらに苦しみながら別れの言葉を言わなければいけなかっただろう。


引き留めないのが、せめてもの成瀬の優しさだった事は分かるけど。


分かるけど。


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