レイン。序章
俺は、桶を持ってテントから出た。

まだ朝だというのに、照りつける太陽のせいで砂がかなり熱い。

砂漠の夏は厳しい。
夏でなくとも、日中は気温が50度を軽く超える。

「お兄ちゃん、病気はもういいの?」

「大げさだな。ただの風邪だよ」

メルは華が咲いたような笑顔で駆け寄ってきて、俺の手を取った。

まだ5歳の小さな妹。

麻でできたワンピースを着て、その下には俺と同じようにして、ズボンとブーツをはいている。

腰まで伸ばした金色のウェーブがかった髪が、日光をうつして煌めいた。

「水は、足りている?」

母さんはテントの中で朝食を作っていた。

「ええ、でもそろそろ汲みにいかないと。レイン、お願いしてもいいかしら?」

「お兄ちゃん、こっちへ来て!あたしが描いたの、見て!」

メルが俺の腕を引っ張った。

小さな手で。

「ごめん。帰ってきてから、見せてくれな」

俺は妹の手をほどいて、頭を撫でてやった。

髪の毛が熱くなっている。

帽子をかぶらないと、ダメじゃないか、メル。

そう言ったら、彼女は林檎のように笑った。

俺は桶を持ち直して、水場へ向かった。
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