レイン。序章
街の真ん中を貫く大通りは、人で溢れかえっていた。

人混みにもまれながら振り返ると、もう皆の姿は見えなくなっていた。

「ねえ、お兄ちゃん、どうしてお別れしたの?また、会えるかな?」

メルが、駱駝に揺られながら海のように潤んだ綺麗な瞳で俺に言った。

「二度と会えない」

「どうして?」

「それは、俺が……」

その続きは口に出すことができなかった。

妹にだけは知られたくないことだった。

復讐のために剣を振るったということだけは、言ってはならないと俺は心に決めていた。

彼女の中で俺は、いつまでも綺麗な兄でいなければならなかった。

「もう、どこにも行かないでね」

そう言って笑った彼女の目から、涙がこぼれた。

たった6歳の幼い妹は、砂漠の夕陽を受けて、あの頃のようにみかん色に輝いていた。






序章 了
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