俺が好きなのは、ずっとお前だけ。


「あのー、原先生」


俺は遠慮がちに、そーっと手をあげる。


「俺、数学の教科書忘れたみたいですー」


「はぁ……しょうがないな。それじゃあ、隣の席の人に見せてもらいなさい。
古賀、悪いけど一之瀬に教科書見せてやってくれないか?」


お! ラッキー。原先生、たまには良いこと言う。


「ごめんな? 美月」


俺は、自分の顔の前に両手を合わせ、小声で美月に言う。


「ううん? どうぞ」


美月が自分の机を俺の机に寄せ、机と机の真ん中に教科書を広げて置いてくれる。


「はい。じゃあ教科書の次のページの、問1から問3まで解いてみて」


原先生に言われて、俺ら生徒は問題に取り組む。


『次の式を因数分解せよ』か。

えーっと……あ、違う。書き間違えた。

消しゴム、消しゴムで消さないと……。


俺が、消しゴムを筆箱から取り出すと同時に、手から不意に消しゴムが滑り落ちる。


「あっ」


それは床へと落ち、俺の右隣の美月のほうまで、コロコロと転がっていってしまった。


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