きっと100年先も残る恋
目的もなく、雄介が湖に続く道に入る。
木々の間の小道。

「もしさ、もしなんだけど」

雄介の歩くペースがいつもよりもさらに遅い気がする。
考えながら歩くと、全然前に進まないらしい。
そりゃそうだ。

雄介は歩くスピードも、話すスピードも遅い。

「事務所に入って、いろんな仕事するようになったら、こうやって堂々と会えなくなるかもしれない」

そこでやっと雄介は立ち止まって私を見た。

「不本意ではあるんだけどさ」

雄介にとって言いにくい話題だったのかもしれない。
でも私からすると、ピンと来ないというか、今まで堂々とし過ぎてたというか、やっと、という気持ちで大きなショックは受けていないのが本当のところだった。

私は頷く。

「アイドルじゃないのに、変だよね」

そんな雄介の言葉が、逆に変に聞こえる。

「私はそういう世界の人はそういうもんだと思ってたよ」
「俺のこと、そういう世界の人って思ってた?」

そう聞かれて考える。

私と一緒にいる時はいつも普通で、学生であり、恋人だった。

「普通の恋人だと思ってた」

水面が揺れる。

「ありがとう」

なぜか、雄介から感謝された。

「これからも俺は普通の人でいたい」

意味が分かるような、分からないような。

それはまだ雄介が売れないモデルだからなのかもしれない。

私が、雄介の親のことを知らずに近づいた人間だからかもしれない。

「英子の前では」と彼は続けた。

< 35 / 75 >

この作品をシェア

pagetop