わがままイレブン!

8 びっくり部室

「静かだね」

「また言ってる……」


瞳にそう言われた美咲は、え?という顔をした。

「朝からそればっかり」

「だってそうなんだもん」

藤袴高校の3年生は修学旅行に行き、学校が少し軽くなったように美咲は感じていた。

「それよりも、ほら、呼んでるよ」

「あれ、どうしたの」

同じ一年生の文也と豪が呼んでいるので美咲は教室の外にでた。

「なんの教科書?」

「違うよ!ね、放課後手伝ってよ」

「文也。それじゃわからないよ。美咲、あのな」

豪は3年生が居ない隙に部室を片付けるように3年マネージャーに言われていたと話した。


「二年生は忙しいから、俺達だけなんだ」

「別に良いけど、尚人は?」

「用があるってさ」

「わかった!じゃ、放課後」


そんな美咲は自分の席に座った。

「……良かったね」

「何が?」

サッカー部員と話をして急に生き生きした友人を見て瞳はふっと笑った。


「なんでもない。さ、5時間目だよ」

こうして美咲は授業を終え、二人が待つ東棟へつづく廊下に行った。


「美咲!じゃ、行こうか」

「うん!」

しかし、豪は美咲の用意に首を傾げた。

「そのダンボールは何に使うの」

「いいから、いいから!」

「そのスコップは?」

いいから、いいから!!と美咲はサッカー部の部室にやってきた。


「ここだよ」

「見た目は大丈夫そうだね」

隣室の男子バレー部が行き来する中、文也は預かった鍵で部屋を開けようとした。

「待った!ストップ!」

「どうしたの美咲」

「あれ。見てよ」

ドアの上の方には、セロハンテープがドアのすき間に貼ってあった。

「そうか。誰かがドアを開けたらわかるように仕掛けをしてあるのか」

「うん。あの高さだと陽司さんね。じゃあさ、あそこを写真に撮るか」

文也と話した美咲は掃除後に同じ状態に戻そうと考え、セロテープを破らない様にそっとドアを開けた。

「電気を点けるから」

「豪?待って!待って……」


美咲はスマホの明かりで部屋のスイッチを照らした。

「やっぱり?これ、見て……」

「何か塗ってあるね」

「ケチャップか」

上級生のトラップに呆れる三人は、このケチャップを指に付けない様にスイッチを押した。


「点いた」

「こんな感じだよ」

「綺麗だね……」

部屋にはロッカーが有り、床には物が無く整然としていた。


「でもなんか変だと思わないか?豪」

「ああ。こう。どこがどうとは言えないけど」

「……綺麗すぎる。おかしい……」

日頃のヤツらの行動を知る美咲は、やけに清潔な部屋に疑問を抱いた。


「女子マネさんは何て言っていたの?」

「学校に持ってきてはいけない物があったら、試合に出られなくなるかもしれないから、探しておいてくれって」

「持ち込み禁止物か……どこだ、どこ」

そう言って美咲はロッカーを一つ一つ確認し始めた。


「私物を漁るのは嫌だな……そうだ?豪。スマホを無くしたって言ってたよね?」

「え?美咲何を言っているの?豪のスマホはここに。むぐぐ?」

豪は背後から文也の口を塞いだ。

「いや、さっきから見当たらなくて困っているんだ。悪いが美咲。先輩のロッカーに入っているか探してくれ」


「そういうことなら仕方ないものね」

こんな昭和の刑事みたいな言い訳をして美咲はまず、和希のロッカーを開けた。


「なんだこれ?写真が貼ってある」

「楓さんじゃないか?どうりで着替える時にいつもニヤニヤすると思ったよ」

「じゃ、問題無いか……あ、なにこれ?」

美咲の声に二人は和希のロッカー内を覗きこんだ。これに文也は叫んだ。


「これ見てよ?パンが入ってるし?カビてるよ。捨てようよ!」

「ああ。本人が食べる前に」

「危なかったね……次、純一さん」

美咲は彼に申し訳ないので、拝んでからロッカーを開けた。


「本がいっぱいあるわ」

「グルメ雑誌だね」

「一冊見てみよう」

本には付箋が貼ってあったので、三人はそのページを開いた。そこには美味しいという評判の店の事が書いてあった。


「これっさ。俺、純一さんから話を聞いたな」

「俺も。自分が行った店って言ってたぞ」

「純一さんの名誉のために……この本。見なかった事にしよう」


うんと頷いた男子二名とともに美咲はネクストロッカーを開けた。

「わわわ!」

「ラブレターの山かよ?」

「凄い量だな」

ロミオは受け取ったラブレターを面倒なのでぜんぶここに入れていた様子だった。


「今は個人情報うんぬんでしょう?これをシュレッダーにかけるのが面倒なのね」

「この量だもんな」

「でも戻そう」

そして三人はなんとかこれを元に戻した。そして次は陽司のロッカーを開けた。


「綺麗だ。みて、綺麗だよ、美咲」

「陽司さんは綺麗好きだけど。これは綺麗過ぎだな……」

美咲はそういって今度は透のロッカーを開けた。そこにはサッカー用品しか入って無かった。



「おかしいな」

「どうしたの」

そして二年生のロッカーも異常なしで全員のロッカーを確認し終えた美咲は歩に落ちない顔でロッカー以外の場所をチェックしていった。

「まだ何かあるのか」

「あのね。豪。何も無いのがおかしいな……ん。待って?」

美咲が目をつぶり耳を済ませたので二人はじっとしていた。すると彼女は目を見開いた。


「?風が吹いている。こっちの方だ……」

そして美咲は掃除用のロッカーの前にやってきた。

「二人とも。このロッカーをずらして」

「うん。せ―の……」

「……あ、なんだこれは」


そこには大きな穴が開いていた。

「豪。隣の部屋は?」

「ワンダーフォーゲル部だけど、とっくに廃部で誰もいないよ」

「文也。行って見て」

「つうか。もう見えてるし」

穴の向こうには美咲の想像通りアイドルの水着の写真集があった。


「ほう?みんなこんなのを見てるんだ」

「俺は見てないよ?」

「俺も」

すると美咲は二人をジロと見た。

「別に見てもいいけど?隠すって言うのは男らしくないよね」

そう言って巨乳の写真集をパタと閉じた美咲はうーんと考えた。

「このアイドルさんに悪いよね。せっかく頑張って撮影したのに」

「……」

「……」

口調は優しいがかなり怒っている彼女に二人はただ下を向いていた。


そんな彼女はとにかく本を回収し、ダンボールで穴を塞ぎ部屋のゴミを持って元通り施錠した。


「セロテープの仕掛けは平気?」

「うん。元通りにしたよ」

「豪。監視カメラも無かったよね」

「ああ。全部確認した。で、どうするのその本」


抱えている彼女はそうだな、と思案した。

「最初は陽司さんの自転車の荷台にしばってやろうと思ったけど。試合に出れなくなったらみんなに悪いもんね」

そんな彼女はこれを埋めようかと思っていたが、やはり5人のマネージャーに渡すことにした。

こうして三人は任務を終えて、バスに乗り込んでした。

「美咲。なあ、美咲」

「ん?ごめん、ちょっと考え事しちゃった」

「……家まで送るよ」


そしてやってきた真田家で、美咲はカレーが余ってどうしようもないので二人に食べてもらおうとお鍋を温めていた。しかし口数の少ない彼女に豪と文也は心配していた。

「あのさ。さっきの写真集だけど。気にしないでよ」

「そうだよ!その、美咲は美咲で素敵だよ」

「……そうじゃない、そうじゃないんだよ。まあ食べながら聞いてよ」

美咲はそう言って、カレーライスを彼らに薦め、話し始めた。

「二人だから話すけど。私ね。この前初めてデパートの下着売り場に行ったの」

そこで美咲はちゃんと自分の下着のサイズを測ってもらったと話した。

「そこでね、ブラジャーの真実を知ったの」

「真実?」

「聞くよ」

美咲は自分のご飯を山型にし、周りにカレーをかけて説明し始めた。

「みんなAとかDとかカップに気を取られるけど、胸で一番重要なのはアンダーバストだったのよ」

「アンダーバスト?」

「それはどこなの」

美咲はブラの下の線だと男子高校生に教えた。

「そしてね。カップのサイズは、アンバーとトップバストの差で決まるの」

「なるほど」

「差があるほどカップが大きくなるんだね」

「そう。よくグラビアアイドルさんが公表しているのは、トップバストなんだけど肝心なのはアンダーの方なの……」

そんな美咲はカレーにスプーンを入れた。

「例えばね?トップが80センチでも、アンダーが65センチと75センチじゃ全然違うわけよ」

「たしかにな」

「差が勝負なんだな」

「そう言われたんだ、私も……」

美咲は今まで自分は貧乳で兄に馬鹿にされるので『寄せてあげるブラ』を買ってみたくて店に行ったと白状した。

「して?美咲のサイズは」

「アンダーのサイズは最低だろう?細いから」

「さすが豪。そうなの、そして私、筋トレの成果でトップが85もあったの」

「すごいじゃん!」

「じゃ。カップは何になるの?Cとか」

すると美咲は嬉しそうに立ち上がった。

「Eよ」

「「E???」」

「そう。私はEップの女だったの。すごいと思わない?」

「E。それでE……」

「文也!失礼だぞ」

「いいのよ、豪。そうなのよ。私ってEカップもあるけどそうは見えないでしょう?だから大きさは、見た目じゃわからないのよ」

すると美咲は没収した写真集を広げた。

「それに見て。このポーズの彼女。胸を寄せているでしょう」

「確かに」

「言われてみれば」

「こっちはお尻ばっかり。だから胸はそんなにないんだよ?でもぽっちゃりして肌が綺麗だから、こんなポーズはセクシーで可愛く見えるよね」

二人は写真集をそういう目線で見ると、確かに美咲の言う通りだった。

「っていうことはさ。美咲は胸が大きいってこと?」

「サイズを測ってくれたおばさんにはそう言われた」

「E65か。すごいんだね」

「……」

「でも文也?誰に言わないでよ、それにさ。人を胸で判断するって、許せないな、って」

すると黙っていた豪が口を開いた。

「俺は美咲が好きだから。胸の形はどうでもいいけどな」

「僕もそうだよ?美咲の事が好きだけど。胸がどうなっているかなんて考えたこともないよ?」

「ありがとう……フフフ。さあ!今度はデザートのスイカだよ」

こうして文也と豪は彼女を微笑み顔にしたのだった。



そして翌日、奴らは帰ってきた。

「う、これは……ビーフシチューの匂いだ?」

「おい、和希、しっかりしろよ?修学旅行は家に入ってドアを閉めるまでが修学旅行なんだぞ?」

「美咲ー。美咲ー。つかれたー」

「帰ってきてやったぞ」

「翼先輩。3年生は無事に帰って来れました」

「おう!お前ら三日見ないうちに、立派になったな……」

真田家には美咲は不在で、翼と尚人しかいかなった。

「はい。ビーフシチュー。美咲はなんか知らないけど、登山グッズを見つけたから、山登りをしてみたいって言って。文也と豪と一緒に体力をつけるって言って、近所を走りに行ったぞ」

「登山?どうしてだろうね」

首をひねる純一に陽司はうーんと考え込んでいた。

「どうせ一回登れば飽きるさ。あいつの頭はサッカーボールでできているんだから」

「陽司、それを言うなら、サッカーの事でいっぱいだって言うべきだろう」

「透さんの言う通りだよ!なんだよ美咲の頭がボールって。空っぽじゃないか!」

「尚人……お前は美咲を愚弄する気か?」

「愚弄してるのは陽司だろ?そうだ……俺も一緒に登ろうっと!和希は?」

「俺か?てっぺんで食べるお握りは美味いんだろうな……」

こんな話を聞いていたロミオは、翼に訪ねた。

「ねえ、美咲はまだ?」

「ああ。もうすぐじゃねえかな」

「……迎えに行く。どっち?あっち?向こう?」

すると透が眉を潜めた。

「ロミオ。ここで待て!すぐ帰るから」

「やだ。迎えに行きたい」

その時、玄関からドアが開く音がした。

彼らは一斉にリビングのいつもの場所に隠れた。

そんなバレバレのかくれんぼに、彼女もいつものように彼らを捜し出していた。


こうして真田家には今夜もびっくりするくらい笑いが溢れているのだった。



つづく


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