二重人格者の初恋
「じゃあ、今度こそ俺は行くね。」
立ち上がり、お尻についた砂を払っていると、画家が再び腕を掴んできた。

「良いって思った所は全部、伝えたよ。これ以上は、嘘になっちゃうよ。」
「そうじゃない。もう十分、褒めてもらえて私は満足してる。でも、もう一個だけワガママを言いたくなっちゃったの。」
「ワガママ?どんな?」
「あなたとまた会いたいっていうワガママ。あなたの連絡先を教えてくれない?」
「連絡先?別にいいけど。」
「ほんと?やった!ありがとう!」
「その代わり、俺からも一個ワガママ言ってもいい?」

画家の顔が一瞬、困惑したように見えた。
一体、どんなワガママを言われるのだろうか?自分の手に余るようなワガママだったらどうしよう。
そんな顔をしていた。

「そんな不安がらなくて大丈夫だよ。さっき見せてくれたSNSのアカウントが俺だってことを誰にも話さないで欲しいってだけ。」
「そんなことか。それなら大丈夫!私も元々、あなたのことを誰かに話すつもり無かったから。安心して。」
「良かった。じゃあ、約束ね!」

そう言うと、俺は画家の小指を強引に立たせると、自分の小指に絡めて、
「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーら、はーり千本のーます!指切った」
と約束の近いをさせた。

連絡先を交換しながら、画家は、
「私の名前は、ヒカル。あなたの名前は?」
「俺はヒロシだよ。」
「ヒロシって顔には見えないね。」
「ヒロシ顔ってどんな顔だよ。」
「どんなだろうね。次会う時までに考えておく!」
「あっあぁ。」
俺は気の抜けた返事をした。

「ねぇ、次いつ会える?」
画家は顔を赤くしながら、問いかけてきた。
「うーん、そーだな。また来週の金曜は、ここの公園に来ると思うよ。」
「来週の金曜日ね。分かった!私も来週、また公園に来るね。」

画家と別れた俺は、先ほどの画家の顔を忘れないように、近くの芝生に腰を下ろすと手に持っていたスケッチブックに急いで彼女の似顔絵を描いていた。
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