俺様社長は奥手な秘書の初めてを奪う
「え、ルイさんがですか? 来日は明後日のはずじゃ……」
『今どこなんだ? 何分で来れる?』

私の問いには答えず世継ぎ早に社長は質問してくる。
ため息をつきかけ、なんとか堪えた。

(こんなこともあろうかとジャケット持参しておいてよかった……!)

「台場です。三十分程度かかるかと」
「分かった。ルイもお前に会えるのを楽しみにしてるんだ。気をつけて来いよ」

『気をつけて来い』なんて普段は言われないので、動揺して『はい』の返事が小さくなる。
そんな私をどう感じ取ったのか、フッと乾いた笑い声が鼓膜を揺らした。

『早く来いよ、待ってるから』

甘さを含んだ低音でそう一言告げられ、ブツッと乱暴に切られる。

「……っ」

(私って本当に、バカ。今はデート中だっていうのに……!)

スマホ画面を耳を当てたまま顔を熱くさせていると、再びハァーッと大きなため息が背後から聞こえてきた。

「芽衣、もううんざりだ。別れよう」

「えっ、裕翔!?」

呆れたように吐き捨てた彼は、さっさとその場から立ち去ってしまう。

「行っちゃった……」

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