小さな恋、集めました【短編集】
別クラスの彼

【夏休み】



クラスが違うって本当に不便。


「教科書忘れたから貸して〜」

「またかよ」


だって、理由なしに会いに行く勇気が私にはないもの。



「怪我や事故に気をつけろよ」

締めの担任の一言でクラスが一気に湧き立つ。

そう、夏休み。

私も浮かれているけれど、気がかりなこともある。

それは夏休み中は彼と会えそうにないこと。


教科書を返しに行く途中、これを返さなければ会える理由になるかな、なんて考える。

そんなことあるわけないけど。


「これ、ありがとう」

「ん」


騒ついている教室。浮ついているのはどこのクラスも同じみたい。


「じゃあ、またね」

「なぁ」


帰ろうとした途端。
予想外の急な呼び止めに、思わず胸がどきりとする。


「夏祭り、誰かと約束ある?」

「な、ないよ」


「……なら、俺と行かねぇ?」


そう言った彼の顔はわずかに紅潮していて、つられて真っ赤になった私が返事をしたのは、わずか数秒後のことだった。

< 11 / 24 >

この作品をシェア

pagetop