求められて、満たされた
「え?」
「あ、うん。男子とだったらさ、多少嫌な事言っちゃっても互いに言い合って解決したりって出来るんだけど。その、だからさ、女子だとさ、そうもいかないじゃん?俺、女子との距離の詰め方分かんないし、不快にさせちゃってたら言ってほしいんだけど。だから、俺が今から言うことも不快に思ったらちゃんと言ってね。その時は謝るから。」
優登さんは軽く視線を逸らしてからもう1度私の目を見る。
「奈生ちゃん、学校行ってないよね。」
どうして、そんな簡単に嘘を見抜かれてしまうのだろう。
何も言えなかった。
どう答えていいのか分からない。
こんなあっさりバレるなんて思ってもいなかったし、だからバレた時にどうしたらいいかなんて勿論分かるはずもない。
「奈生ちゃん、ごめんね。やっぱ、聞いちゃいけない事だったよね。忘れて。ごめんね。」
優登さんが黙っている私を心配そうに見つめる。
きっと、優登さんもどうしていいのか分からないんだろう。
「奈生ちゃん、あの、バイト辞めないでね?」
「え?」
「忙しくなったりして辞めるのは仕方ないと思うからその時はいいんだけど、今の事で辞めたりとかはしないでほしい。」
優登さんの目が泣きそうになっていた。
どうしてそんな表情をするのだろう。
「俺、奈生ちゃんと仲良くなりたいんだ。だから…辞めないで。」
分からない。
優登さんがどうしてそんなことを言うのか、どうして合ったばかりの私に対して泣きそうになっているのか。
でも、一つだけ思った。
泣かないで、と。
優登さんに泣いて欲しくなかった。
だから、言葉が出ていた。
「辞めないですよ。バイト、辞めないですから。」
音楽を辞めると決意したあの日から私は私を殺して、自分を偽装して生きてきた。
必死に自分を偽って他人を欺いてきた。
そうやって、繕ってきたのに。
彼はいとも簡単に見抜いてしまった。
こんなんじゃ、繕った意味なんて無いじゃんか。