求められて、満たされた
そんなオーディションだった。
「奈生、来週の学内オーディション出るんだって?」
専門学校で一番初めに友達になった佐藤遥香(サトウハルカ)が休み時間に声をかけてきた。
8月の第1週目の土曜日に行われるこのオーディションは入学したばかりの1年生で受ける人は少ないため、珍しいという目で見られた。
「うん、出るよ。」
「奈生歌上手いしね。合格も夢じゃないんじゃない?」
「やめてよ、そんな簡単じゃないよ。」
そう答えつつも、自信は密かにあった。
確かに専門学校に入学して少ししかまだ経っていないけれど、音楽をやろうと決めた中学の頃から毎日欠かさず音楽に触れてきた。
ギターの練習も歌の練習も作詞も作曲も全部全部夢中でやってきた。
だから先輩にも負けたくなかったし、絶対に合格すると意気込んでいた。
「奈生はいいなあ。ギターも歌も作詞も作曲も出来るじゃん。何でも出来るの羨ましい。」
何気ない遥香の一言だった。
その一言が凄く気に触った。
「何が羨ましいの?練習したから出来るようになっただけだよ。遥香も練習すればいいじゃん。」
遥香の顔が引き攣ったのが分かった。
まさかそんな返答が来るとは思っていなかったのだろう。
「出来るまで練習もしないで羨ましいって、練習しなきゃ出来るわけないじゃん。そんなの当たり前でしょ?」
「練習しても出来る人と出来ない人は居るよ?それが才能でしょ?才能ある人には才能ない人の気持ち分からないよ。」
遥香の言ってる事がわからなかった。
何よりも、簡単に才能という言葉で私のこれまでの努力を言いくるめられた事に腹が立った。
遥香は拗ねたようにそっぽを向いている。