求められて、満たされた
「それは…」
「もう充分じゃない?奈生ちゃんは自分の音楽で誰かを傷付けてしまったと気に病んでいたけれど、でも奈生ちゃんは今誰かのために動いていた。誰かのために何かをするってことを知った。なら、もう音楽をやっても同じように誰かのために出来るんじゃない?」
涙が零れてくる。
いつもは苦しくて涙が零れてくるけれど、今の涙はそうではなかった。
心のわだかまりが溶けていくようなそんな温かい涙。
優登さんの言葉はもしかしたら私にとって都合の良いだけの言葉かもしれない。
それでも信じてみたかった。
縋ってみたかった。
「奈生ちゃんは凄いよ。俺が保証する。初めて会った時にもそう言ったでしょ?」
初めてアルバイトに行った日、音楽をやっていると答えたら優登さんは凄いと連発した。
物凄い剣幕で私を説得する優登さんに笑えたあの日。
まだそれから数日しか経っていないのに懐かしく思えて。
ずーっと前から優登さんに会っていたようなそんな気にさえなれた。
「奈生ちゃん、音楽好き?」
「はい、好きです。」
「うん。いつか聴かせてよ、奈生ちゃんの歌。」
「いつになるか保証出来ませんよ?」
「あはは。待ってるよ。ずっと。」
まだ克服出来たわけじゃない。
きっと、またあの日のことを夢に見ては魘されてしまう事もあるだろう。