鬼の棲む街



[別に、いつもと変わらない学校と家の往復よ]



そんな返事をしたのは一限が始まる少し前だった


「・・・ハァ」


白のことで気が重くなるなんて、これまで一度もなかったから正直、戸惑っていた


「どうしたの?朝からため息」


相変わらず隣の席に座る紗香は


「美人のため息って破壊力あるわぁ」


なんて携帯をこちらに向けるから、ひと睨みして前を向いた


「・・・紗香って幼馴染っている?」


気がつけばそんな言葉が口から溢れていて


「ん?・・・居ないなぁ」


「そっか」


都合の良い関係を続けてきた白との距離感に初めて悩んでいる


「GWは実家に帰るの?」


隣から聞こえた声に


「帰るわ、父様との約束」


そう答えて視線を合わせると


「思ってたけどさ、小雪ってお嬢様よね?」


紗香は突然そんなことを言い出した


「ん?」


「だって、父様、母様、兄様って家族に“様”はつけないよ?」


指摘されて初めて呼び方すら特別なのだと気付く


「ま、駅近の高層マンションに住んでる時点で気付いてはいたんだけどね〜」


紗香はフフフと綺麗に笑った


私は紗香の方が羨ましいけどね。そんな言葉を飲み込んで


「敢えて否定はしないわ」


髪をひと掬い指に巻き付けた


「期待を裏切らない〜」
「さすが〜」
「小雪カッコいい〜」


なんだかよく分からないけど紗香はそれを揶揄うでもなく茶化すでもなくて心地良くて頬が緩むのが分かった


ちょうど教授が入ってきて

ふと頭を過ったこと・・・


地元の紗香なら知ってるかもしれない
そんな気がして


[オニって知ってる?]


付箋紙にそう書いて紗香に見せた


「・・・っ」


途端に目を見開いた紗香は「なんで?」と小声で聞いてきた


色々は話すと長いから端折って


「耳にしたの」だけ答えると


「お昼にね」


それだけ言って前を向いた



どうやらこの話は長いらしい








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