こうして魔王は娶られましたとさ。

 こいつ……!
 魔王殺し(キラー)のスキルでも持っているのだろうか。ことごとく僕の言動を先回りしやがる。だからといって、ここで取り乱せば魔王の名が(すた)る。魔王たるもの、ででんと構えておかなくては。

「無論、両方だ。だが、精神的なものは目に見えないからな……目安にするのは、肉体的なものになるだろう」
「例えば?」
「たっ、たと、えば?」
「見たところお前は防御系特化型だろ。てことは弟魔王の方が攻撃系特化型だろうから、支援系特化型がいい、とか、」
「そっ、そうだな、」
「あとは普通に、術も武器もなしで殺り合って勝つとか」
「そっ、それも必要だ!」

 こっ、ほん。
 咳払いをひとつして、己を誇るように胸元に手をあててから、僕は口を開いた。

「この! 魔王である僕を! 素手で、それこそ一撃で戦闘不能にするくらいの実力がなければ、魔王の伴侶は務まらないからな!」

 瞬間、水を打ったように国王を含めた甲冑まみれの群衆が静まり返る。
 いやはや、気持ちは分からないでもない。僕を一撃で倒すなんて、そのような者がいるはずはないのだからな。

「え。それ、ロヴァルじゃねぇか」

 ふふふ。
 なんて、脳内でほくそ笑むとほぼ同時に、右斜め後ろから放たれたその声。

「な、お前は……っ、確か、エイ……ダン、」

 声の方へと視線を向ければ、緑の瞳に白銀の髪。

「おー、覚えててくれたんだな、魔王さま」

 結界を破ったもうひとりの人間がそこにはいて、びくり、反射で肩が揺れる。

「お前、今、何と言った?」
「え。魔王……さま……?」
「違う! その前だ! 多分ふたつぐらい前!」
「え……? あー……ロヴァルじゃねぇか? だっけ?」
「何故そう思う!?」

 できれば、これ以上、人間には関わりたくない。さっさと実家に帰りたい。
 しかし、僕には、確かめなければいけないことがある。
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