運命なんて信じない
「どうしたの、受付で流血事件?」
ちょうどそのタイミングで声をかけられた。

頭を上げると見覚えのある顔。
そこにいたのは先日街中でばったり出会った賢介さんお従弟、平石陸仁さんだった。

「君、このあいだ麗といた子だよね」
「ふぁい」
口が押さえられていて、ハイが言えない。

「大丈夫?」
心配すると言うより、面白がっている感じで楽しそうな声。
そして、陸仁さんは何のためらいもなく私に顔を近づけてきた。

ドキッ。
思わず身を引いて逃げてしまう。

「ダメだよ。ちょっと見せて」
手首を捕まれて、押さえていたティッシュを剥がされた。

「あ、あの・・・」
男性が至近距離にいる恥ずかしさで、言葉が出ない。

「普通、血が出るまで噛まないけどなあ。何かあった?」
傷口を見ながら、尊人さんが首を傾げる。

「別に、何も・・・」
ほぼ初対面の人に何かあったと聞かれても、答えようがない。

しばらく傷口を会押さえて止血していた陸仁さんは、
「もう血は止まっているから大丈夫だよ。熱いものを食べるときにはしみるから気をつけてね」
と、受付を離れて行った。
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