運命なんて信じない
「本当に麗なの?」

「しつこいわね」

うわー、いつもの麗だ。

「麗、私あなたに話したいことがたくさんあるの」
やっと目が覚めた私は、一気にしゃべり出した。

「遥は、随分大きくなったのよ。まだ周りの子より小さいけれど、足も速いしお話だって上手で、とってもいい子」

「うん」
笑って頷きながら、麗は聞いている。

「でも最近自我が出だして、わがままが過ぎるときがあるのね。その上、お父様もお母様もお手伝いさんまでがみんな遥の言うことを何でもきくものだから、調子に乗って」

「そう」
ちょっと困ったなって顔をする麗。

「このあいだ、おなかの調子が悪い時に、『ご飯はいらない。アイスが食べたい』って言いだしたから、私が『アイスは後にして少しでもご飯を食べましょう』って言ったの。そうしたら怒り出しちゃって。きっと体調が悪かったのね。用意した食事を床に投げ落としたの」

「ええ?」
麗が驚いている。

「普段そんなことする子じゃないから、私もお母様も驚いて、立ち尽くしてしまったの。そうしたらね、賢介さんがいきなり遥を抱き上げてお尻を叩いたの。『食べ物を粗末にする子はパパが許さないよ』って。凄く怖い顔をして。遥は大泣きしたのに、『喜代さんがせっかく作ってくれた食事を粗末にする子は悪い子だ。謝りなさい』って。遥が『ごめんなさい』って言うまで叱ってて。私が見てても怖かった」

「遥は大丈夫なの?」

「うん。パパに怒られて、しばらく私にべったりになったけれど、すぐにパパに寄って行ってたわ。でも、パパは怒ると怖いって思ったらしくて、『そんなことすると、パパに言うわよ』って言うとすぐに言うことをきくようになった」

私自身は父も母も知らずに育ったけれど、遥はみんなの愛情に包まれている。

「大切に育ててくれてありがとう」

うんん。

「私こそ、遥を育てさせてくれてありがとう」
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