運命なんて信じない
「翼は、ずっと働きながら大学に行っていたの?」
私は気になっていた事を訊いてみた。

「まあね。大学も高校も夜は働いていた。母子家庭だったし、病弱な弟もいて、とても俺の学費なんて出せる環境ではなかったからね」
3杯目ビールを開けて、いつもより冗舌になった翼。

「ホストもしたし、ヒモみたいな生活をしていた事もある。お前達とは住む世界が違うんだよ」

「・・・」
私は黙り込んだ。

そんなことはない。
私も翼側の人間。
そう言いたかったけれど、言えなかった。
まだ口に出来ない過去が、私にもあるから。


「それで、今日の件はもう大丈夫なの?」
かなりお腹も膨れた頃に、麗が心配そうな顔をした。

「専務のお陰で、ちょっと派手な取り立て屋だったってことにしてもらった」

「そう。これからは気をつけなさいよ」
パンッ。
と、麗が翼の肩を叩く。

「ああ」
そう言うと私を見た翼。

「琴子。専務にお礼を言っておいてくれ。『お陰で首が繋がりました』と」
「うん。伝える」
「それと、琴子も、ありがとう」
「どういたしまして」

本当に、翼が処分されなくてよかった。


その後も3人で飲んで、気分がよくなった私たち食事の後にカラオケに行って、10時過ぎてから自宅に向かった。

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