運命なんて信じない
歩きながら麗に電話をして今日泊めてもらうOKをもらい、駅前で拾ったタクシーで私は麗の家へ向かった。


「こんばんは。お邪魔します」

「どうぞ」
ちょうど帰宅したばかり麗が、部屋へと案内してくれる。

ソファーに座り荷物を降ろすと、すぐにばあやさんがお茶を出してくれた。

「ありがとうございます」
「どうぞごゆっくり」

ばあやさんが消えると同時に、麗が私の顔を覗き込む。

「元気そうね」
「まあね」

「昨日の夜何があったのか、聞かせなさいよ」
「何で麗が知ってるの?」

昨日のことは翼と賢介さんと美優さんしか知らないはずなのに。

「夜遅くに翼が賢兄の携帯番号を教えろって言うんだから、琴子に何かあったとしか考えられないじゃないの」

なるほど、そういうことか。
翼は麗に賢介さんの連絡先を聞いて電話したんだ。

「で、何があったの?」
真剣な顔で私を見る麗。

「実はね、」

私は昨日の事を、簡単に話した。
薬を漏られた事や、ホテルに連れ込まれそうになった事は隠して、美優さんに呼び出されて酔っ払い帰れなくなって翼を呼び出した事にした。

「へー。それだけ?」
「そ、そうよ」

なんとなく、麗は納得していない様子。

「で、今日は何で家に泊めてほしいの?賢兄に叱られて飛び出したわけじゃないでしょう?」

「うん、飛び出してきたのは間違いないけれど・・・」
「本当に飛び出してきたの?」

ブブブー ブブブー
奥様からの着信。

さすがに出られるわけはなく、私は着信を拒否した。
すると、

ブブブー ブブブー
今度は賢介さんから。

「はー」
思わず大きな溜息が出る。

「出ないの?」
「うん」
出られないよ。
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