運命なんて信じない
言えない過去
8月。
社会人になって初めての夏を、私は迎えた。
勝手に麗の家に行ってしまい叱られたあの日から、1ヶ月が過ぎた。

「琴子ちゃん。今日は遅くなるのよね?」

少々過保護気味のおばさまがその日の予定を確認するのが、最近ではいつものルーティーン。
心配してもらっているという自覚のある私は、素直に答えることにしている。

「麗と食事をして帰るので、10時くらいになります」
「そう、あまり遅くなるようなら電話しなさい」
「はい」

最近になって私は、奥様、社長という呼び方から、おばさまおじさまという呼び方に改めた。
本当はお母さんと呼んで欲しいみたいだけれど、それは追々。

「琴子、今日も電車?」
車通勤のため私より遅く起きてきた賢介さんが台所を覗いている。

「ええ、電車です。行ってきます」

これ以上もたもたしていると車に乗せられそうなので、私は慌てて家を飛び出した。
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