運命なんて信じない
おばさまの手作り餃子は、絶品だった。
野菜と肉のバランスがよくて、隠し味の味噌も焼き加減もばっちり。
あんまり美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまった。

「ところで琴子、昨日は新宿クリーンホテルに泊まったのか?」

え?
おじさまの言葉に、餃子を持っていた箸が止まった。

「父さん、やめろよ。仕事で遅くなったんだ。俺が泊まれって言ったんだから、いいだろう」
賢介さんが不満そうな顔をする。
しかし、おじさまはやめなかった。

「お前だって、あそこがうちの系列のホテルだって知らないじゃわけないだろう。お前達が泊まれば、すぐに私の耳にも入るのは分かったことだ」
それは、苛立ちを含んだ声。

確かに、昨日泊まったのは平石財閥のグループホテルだった。
そこに御曹司の賢介さんが行けば、当然すぐにおじさまの耳に入る。
きっとそういうことなのだろう。

「悪かった。今後は気をつけるよ」
反発するのかなと思ったのに、ビールグラスを手にしたままの賢介さんは素直に謝った。

昨日は間違いなく突発的な事態だった。
賢介さんにとって他に方法がなかったのか、その選択がベストだと思ったのか、理由はわからないけれどおじさまに知られるのは想定内のことだったのだろう。
賢介さんを見ていてそう感じた。

「ほら、琴子ちゃん。もっと食べなさい」
箸の止まった私に、おばさまが勧めてくれる。

「ありがとうございます」
再び箸を伸ばしながら、私もビールを口にした。
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