【完結】イケメンモデルの幼なじみと、秘密の同居生活、はじめました。
 実に普段通りの、楽しい夕ご飯の時間だった。
 美波のちょっとざわめいてしまった心、以外は。
 北斗はどう思っているのだろう、と美波はお箸を再びハンバーグに入れた。やわらかなハンバーグを切り分けて、口へ持っていく。
 どういう写真を撮るんだろう。
 どんな空気なんだろう。
 もしかしたら、向坂さんと、なにか……。
 もんもんとしてしまいそうになって、美波は心の中で首を振った。
 考えても仕方がない、そんなことは。
「おい、美波」
 そこで北斗が声をかけてくれて、美波はそちらを見た。
 隣に座っていた北斗が、デザートのボウルを示している。
「今日のデザート、父さんと母さんが手配して送ってくれたマンゴーなんだ。すげぇ甘いぞ」
 そう言ってくれる北斗は、まったく普通の様子だった。
「そう、……なんだ。おいしそうだね」
 ボウルの中のマンゴーは、オレンジ色をして、つやつやして、いかにも新鮮でおいしそうだった。
「ああ。あとで食えよ」
 北斗は笑みを浮かべて、「ごちそうさま」とお皿を持ち上げた。
 食べ終えたお皿は自分で洗うことになっているのだ、美波の家では。
 そうでなくても、北斗は率先してそういうことをしてくれるような性格だけど。
「北斗は食べないの?」
 美波のお皿には、まだ少しだけご飯が残っていた。
 勧めてくれた割には、自分では食べていない様子だったので聞いてみると、北斗はシンプルに答えた。
「俺はあとで、テレビ見ながら食うよ」
 話してくれるその様子で、美波はちょっと、ほっとした。
「そっか。ありがとう」
 北斗はそのまま流しのほうへ行ってしまって、お皿を洗う音が聞こえてきた。
 美波は残ったご飯をお箸で持ち上げて食べながら、少し心が落ち着いたのを感じた。
 別に変わった会話もしていないのに、不思議なことだけど。
 でも、こうして同じ家で、同じ食卓で、同じハンバーグなんて夕ご飯を食べながら話せること。
 それは特別なことなのだ。
 そして、それはきっと、とても大切なことなのだ。
< 17 / 85 >

この作品をシェア

pagetop