元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 こんな気持ちには覚えがある。

(どうして……)

 かつて、ティアリーゼは同じことを思った。

 勇者だとまつり上げられ、仲間と共に魔王のもとへ到達したあの日、魔王であるシュクルに頭を垂れた仲間たちを見て、そう思ったのだ。

(私は、また騙されていたのね……)

 頬を熱いものが伝っていく。

 最後にこんな悲しみを感じたのは、もっとずっと昔だった気がした。

 勇者ではなく供物だったと知ったときですら涙を流さなかったのに、二度目の今、はらはらと流れるそれを止められない。

 ティアリーゼは家族を、人間を信じていた。

 兄とわかり合えたのだと思っていた。

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