元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。

 そういうところは獣らしい。

 ふんわりと焼き上げられた菓子は、外はさっくり軽い口当たりで、中はほっこり柔らかい。物によっては中に果物やクルミを仕込むこともある。

 つんつん、とまたシュクルがつついた。

 その手を軽く掴んで止める。



「つつかないの」

「気になる。お前が気にしたものだから」

「だったら食べてみればいいでしょう。食べもしないのにつつくのはお行儀が悪いわ」

「お行儀。……わからない」

「今ひとつ覚えたわね」

「いかにも」



 獣であるシュクルには行儀という概念がない。

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