元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「ふふ、あなたにとっては重要なことだものね」

「お前にとっては違うのか」

「ううん、私にとっても大切なことよ。好きな人に好きなだけ触れるんだもの」



 好きな人、と聞いてシュクルは目元を和ませた。

 喜んでいるのがわかる。



「ティアリーゼ」

「なあに?」

「私も、共においしいと言える相手がいる方がいい」



 シュクルにとっては、大したことのない一言だっただろう。思ったことをただ言っただけで、深い意味などないに違いない。

 だが、その言葉はティアリーゼの胸に優しく響いた。



「そうね。私も……その方がいいわ」



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