元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
(お兄様は知っていたのね、きっと。だから勇者として育つ私を、馬鹿だと言っていたんだわ)

 知らず、手を握り締めていた。

 勇者でなく、ただのティアリーゼであればいいと願ったことは何度もある。なのにまさか、こんな形で知ることになるとは。

 溜息を吐いたティアリーゼを見て、シュクルは首を傾げた。そうした仕草もまた、獣に見える。

「殺してやろうか?」

「えっ」

「お前を裏切った人間を殺してもいい。国を滅ぼす方がいいなら、それでも」

 これからお菓子を食べようか、と言うくらいの軽い口調にぎくりとする。

「なにを言っているの?」

「私はお前の望むことをしたい」

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