蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻を溺愛せずにはいられない~


 狭山(さやま)常務から目の前に差し出されたスマホ、これで柚瑠木(ゆるぎ)さんに助けを求めれば私はここから解放されるのでしょうか……?
 ここにいる狭山常務も周りの年配の男性も若い女性も、みんなとても怖いです。
 受け取る事も拒否する事も出来ずただじっとスマホを見つめることしか出来なくて。

 柚瑠木さん、今回だけは私は貴方に助けを求めてもいいですか……?そう考えましたが、私は結婚して今までひとつも柚瑠木さんの役に立てていません。それなのに彼に迷惑だけかける訳にはいかないと思ったんです!
 私はしっかりと心の準備をして、狭山常務から差し出されてスマホに手を伸ばしました。

「私は……私は、柚瑠木さんに電話をかけるつもりはありません!」

 私は常務の手からスマホを床へと払い落しました。震える身体にギュッと力を入れて、私に出来る事はやったつもりでした。
 私が反抗することを予想していなかったのでしょう。狭山常務は驚いた顔で私を見下ろしていました。

「私は柚瑠木さんの妻です。こんな事で彼に迷惑をかける訳にはいかないんです。」

「自分の事より二階堂(にかいどう)君が大事ですか?ちゃんと私の言う事を聞けば貴女は無傷で帰れるんですよ?」

 確かに私が柚瑠木さんを呼べば私はこのまま帰してもらえるのかもしれません。





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