思い出は食べものでできている
小箱を元に戻して、淡く息を吐いた。


父はいつも、少しだけおしい。


お土産に買ってきてくれたロールケーキ。

果物がたくさんのってるケーキねってリクエストしたんだから、一ピースとか、ホールケーキとかだと思ったら、まさかのロールケーキ(キウイ)。

我が家でキウイが好きなのは父だけで、なかなか減らなかった。ケーキを奪い合うようにして食べる我が家で、ケーキが白箱のまま翌朝まで冷蔵庫に入っていたのは、あのときだけ。


ドライいちじくをお願いしたのに、セミドライいちじく。

ただのプリンをお願いしたのに、生クリームがのってるプリン。

小倉たい焼きを頼んだのに、なぜか小倉とクリームの合わさったたい焼き。

カスタードだけのシュークリームを頼んだのに、カスタードと生クリームが入っているシュークリーム。


挙げればきりがない。父はいつも一生懸命で、ほんの少しおしい。


でも、別に意地悪してるわけじゃないって知っている。ただ覚えたり見分けたりするのが苦手なだけ。

それから多分、かつての思い出がまぶしすぎるだけ。


だから、ほんとは違くても、お礼を言って黙って食べる。


買ってきてくれたんだし。違うのなんて、ちょっとだけだし。

わたしだって、ちゃんと家族全員の好みを覚えてるわけじゃないし。


わたしは甘いものが好きだから区別がつくけど、父が好きな野球のことはさっぱりわからないように、父は甘いものがよくわからないんだと思う。


仕方ない、を舌の上で転がした。


……お父さんは、甘いもの、苦手なんだから。


それが、ちょっぴり期待して、やっぱりがっくりきてしまったときのための、わたしが見つけた一番穏やかな慰めだった。
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