政略夫婦の懐妊一夜~身ごもったら御曹司に愛し尽くされました~

「……な、なんでよ。いつも自分で着けてるじゃない」

と言いながらも、私は腰の高さのハンガーに掛けてあるタオルで手を拭いてから、呼ばれるままに歩み寄る。

「これは勝負どころで着けるって決めてるんだよ。今日の商談は俺の命運がかかってるから。……桃香くれたんだから着けろよ。そこまでセットだろ」

「そうかなあ」

「そうなんだって。ご利益込めろよ」

なにそれ、と思いつつ、私はネクタイを受け取った。それを夏樹の襟に回して結びながら、顔が熱くならないよう「これはただの妻の務めだ」と自分に言い聞かせる。

たぶん、夏樹なりに私に気を遣っているのだろう。この間、変な空気になってからお互い妙にそわそわしているから、いい加減、もとに戻ろうというメッセージだ。
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