死にたがりな君と、恋をはじめる
『まぁ、ね……でもさ、あなたとか幽霊とかじゃなくて、

ちゃんと名前で呼んでほしいなー』



そう言われて、目を丸くする。




「あなた、名前があるの？」



驚きすぎて声が上ずってしまうと、幽霊はパチパチと目を瞬かせて、

それからふっと吹き出した。




『そりゃ、元は生きている人間だったからね』

「……そっか」




そう言われて、ようやく気が付いた。




さっきこの幽霊が止めてくれなかったら、私も、幽霊になっていたんだ。



霊能力者でも現れない限り人に無視される、存在すら感じ取られない、幽霊に。



自分に名前があったことも忘れられて、下手すれば一生その名を呼ばれることはない。



そう思うと急に気の毒な気持ちになって、幽霊をまっすぐに見つめた。





「……わかった。あなたの名前は何？」

『え、……忘れた。奈月がつけてよ』





この野郎……。

せっかくだから本当の名前で呼んでやろうという私の厚意を無駄にしたな。




ぴきとこめかみに血管が浮かびそうになるのを何とか抑えて、質問を変える。




「あなたは何て呼ばれたいの？」


『えー……幽霊だし、レイとか？』


「……わかった、レイね」



おいおい……適当かよ。





何だか釈然としない気持ちだったけど、そう呼ぶとレイは嬉しそうに微笑んだので、

私はそれ以上何も考えないことにした。



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