イジメ返し―連鎖する復讐―
「お前は何を偉そうなことを言ってるんだ」
怒りに打ち震えながら立ち上がると、幸美が一瞬ひるんだ。
この顔がたまらない。
右手を振り上げると、顔を強張らせて肩をすくませた。
何度もビンタを食らわせてきたせいか幸美は俺が手を挙げるとこうやって反射的に身を守るような仕草を見せるようになった。
「やめて、お願い叩かないで……!」
「ご主人様が仕事中に実家に帰る?何を寝ぼけたことを言ってるんだ。誰のおかげでお前は生活ができているんだ。一銭も自分で稼いだことのないお前のようなクズに俺は世間を教えてやってるんだよ!」
ガリガリに痩せた幸美のわき腹に蹴りを入れると、幸美はその場に倒れ込んだ。
「ひどいわ……。暴力はやめて……!」
「暴力?これはしつけだ」
床に這いつくばって頭を守る幸美の頭を何度も蹴り飛ばす。
そのたびに幸美は「やめて」「蹴らないで」「一郎さん、お願い助けて」と叫んだ。
いつものことだった。でも、いつもと違うことが一つある。
涙と鼻水を垂れ流して顔をクシャクシャに歪めて泣くはずが、今日の幸美は顔を歪めながらも涙を流さなかった。
「ハァ、クソっ。体力を使わせやがって」
そのとき突然、急激な眠気が襲ってきた。
「出ていけ!!」
部屋から幸美を追い出すと、俺はパソコンチェアに体を預けた。
夕飯時、酒を飲みすぎたせいなのかそれともただの疲労か。
分からないけれど今日はひどく疲れた。
目をつぶると引っ張られるように意識が遠のいていく。
俺はそのまま夢の世界へ落ちていった。