イジメ返し―連鎖する復讐―
「エマ、久しぶり」

「一週間ぶり、ですかね」

ニコリと微笑むエマの耳元であたしはこそっと呟いた。

「ノエル、まだ見つかってないんでしょ?」

「はい。今のところ家出として扱われています。両親もしばらくは警察に届ける気はないみたいです」

「そう。よかった」

最後のノエルの顔を思い出すといまだにぞくぞくしてくる。

まだ意識はあるだろうか?あんな部屋に閉じ込められたらどんなに強い人間でも精神を病むだろう。

これはあたしをイジメた罰だ。

ノエルには死をもって償ってもらおう。

「実はずっと咲綾先輩の練習の様子を見ていたんです。ずいぶん気合入ってるんですね」

「そうなの?声をかけてくれたらよかったのに」

「なんかピリピリしている様子だったので声をかけずらくて」

「そんなことないけど。ただやる気が見えない後輩たちにやる気を出してほしかっただけ」

エマの言い方にイラッとして口調がきつくなる。

「あたし、悔いを残したくないの。3年はもうあたししかいないし、後輩たちの指導もちゃんとしないといけないから」

「指導なら新しい顧問の先生にお任せしたほうがいいと思いますけど」

「あー、ダメダメ!顧問っていうのは名前だけ。デブセンはバスケのことなんて全然分からない初心者だから」

「デブセン……?」

エマが険しい表情を浮かべる。

「エマは見たことないんだっけ?すごいデブなの。だから、デブセン」

「そういうあだ名のつけ方はどうかと思います」

「やだなぁ、別に悪意を持ってるわけじゃないよ。親しみを込めてそう呼んでるだけ」

急きょ顧問になった若い女の教師は今年新任の23歳だ。

最悪なことにバスケの経験もなければ、信じられないぐらい太っていて少ししゃべっただけで息を切らすありさま。

太もも同士が擦れて歩きずらいせいか、体育館の中ではほとんど動かず棒立ちしている。

あたしが『デブセン』と呼ぶと、他の部員も面白がってデブセンとあだ名で呼ぶようになった。

『そういうのやめなさい!』って鼻息を荒くして怒ってたけど、そう呼ばれたくないのならば痩せればいいだけの話だ。

折原先生も最低だったけど、指導者としての実力はあった。

でも、デブセンは違う。

バスケを学ぼうとたくさんの本やトレーニング動画で勉強していることは知っているけど、余計なお世話だ。

正直、手も口も出さないでもらいたい。

彼女がいないほうがバスケ部の為になる。

「咲綾先輩、変わりましたね」

「まあね。もうイジメられる心配もないし。エマには本当に感謝してるよ」

晴れやかな表情で笑うあたしを何故かエマは冷ややかに見つめる。
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