許されるなら一度だけ恋を…
三月某日
大安吉日の今日、落ち着いた赤に大輪の牡丹を咲かせたお気に入りの着物に身を包み、私『華月(かづき) (さくら)』はここ日本料亭の一室でお見合いに挑んだ。

私は長い黒髪に目鼻立ちがはっきりとした見た目と、常に冷静で落ち着いた雰囲気からクールビューティーと言われていて、これが褒め言葉なのかは分からないけど取り敢えず今日もイメージを崩さない努力をしている。

部屋からは風情溢れる庭園が見え、時折聞こえる鹿威(ししおど)しのコーンっという音が心地良い。

もちろん最初はお見合いに乗り気で、頑張って相手の方に気に入ってもらおうと思っていたが、実際に会ってみると私の熱は下がる一方で、今は時間が過ぎるのをただただ待っていた。

そして定番の「後は若い二人で」を残し、一緒に来ていたお互いの母親が席を外す。

今更二人きりになってもなぁと思ったが、お相手の方が「少し歩きませんか?」とこちらも定番のセリフを言ってきたので、庭園を散歩する事にした。

ずっと正座していたせいか、彼は立ち上がりに少しよろけていた。私は正座に慣れているのもあり、彼を横目にスッと立ち上がって部屋を出る。

風情溢れる庭園の中を歩くと心が癒された。ただ着物に草履の私には、この砂利道と石畳みは歩きにくい。ゆっくりとゆっくりと歩くけど、彼はそんな私に気づかないでまた(自慢)話をしていた。

手を引いてエスコートくらいあってもいいんじゃない?いや、期待してないから良いんだけど……全然良いんだけどね。

少し苛立ちながら心の中で叫ぶ。あーあ、今回もハズレお見合いかぁ。
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