許されるなら一度だけ恋を…
「……僕と一緒に京都に戻りますか?」

「えっ」

私の感情が顔に出ていたのか、奏多さんは真剣な眼差しで私を見てきた。私が返事に困っていると、流し目で笑みを浮かべた。

「冗談ですよ」

サラッとそう言うとまた歩き出す。もし冗談ではなく、本気で奏多さんに言われたら……私は何と答えただろう。

そんな事を考えているうちに家に着いてしまった。繋いでいた手を離し、家の中に入る。

「ただいま」

まず私が玄関に上がり靴を脱ぐ。そして来客用のスリッパを用意して奏多さんの前に並べた。

「気を使って頂いてすみません」

奏多さんも玄関を上がり、多分父が居るであろうリビングへと案内した。

「桜、帰ったのかって奏多も一緒か?」

「家元、夜分遅くにすみません。少し話がありまして」

「話?じゃあ和室の方で聞こうか」

ソファーに座っていた父は立ち上がり、奏多さんと和室へ移動した。私はお茶と和菓子を持って二人のいる和室へ入る。

「では私はこれで失礼します」

二人の前にお茶を置くと邪魔にならないよう部屋を出ようとしたけど、奏多さんが声をかけてきた。

「良ければ桜さんも一緒に話を聞いて下さい」

「えっ、はい」

居ていいのかなと思いながらもその場に正座する。そして奏多さんはさっきの京都行きの話を父にした。
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