許されるなら一度だけ恋を…
「何で否定しないのよ」

「あそこで変に否定する方が怪しく見えるだろ？いいじゃねぇか。俺達がどう見られようと」

そう言って蒼志はご機嫌そうにまたビールを口にする。私もビールを飲もうとグラスに手を当てたその時、突然京都で奏多さんから言われた言葉が頭の中に浮かんできた。

『気を許した男性以外との飲酒は控えた方がいい』

お酒が入ると隙だらけになる私を心配して言ってくれたこの言葉……まぁ私と蒼志の間に何か間違いが起こるわけないか。

一瞬ビール飲むのを躊躇ってしまったけど、蒼志なら大丈夫かと思い私もビールを飲み始めた。

「で？京都で何があったよ？」

カウンター席で隣に座っている蒼志は、片方の肘(ひじ)をついて私の方を向きニヤッとしている。

「何もないって言ったじゃない」

蒼志と視線を合わせないように前を見ながらゴクゴクとビールを飲んだ。

「ふーん、まぁいいけど。それよりお前さ、まだ奏多さんの事好きなの？」

思いがけない質問に私は口にしたビールを吹き出しそうになる。

「何で今そんな事聞くのよ」

「いや、奏多さんの事が好きっていう気持ちが桜の思い込みなんじゃないかと思って」

「どういう事？」

奏多さんへの想いが思い込み？私には蒼志の言っている意味が分からなかった。
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