許されるなら一度だけ恋を…
「ちょっと急に何言い出すの?揶揄(からか)わないでよ」

「いや本気で言ってんだけど」

私が動揺していると、蒼志はニヤッと笑みを浮かべた。

「だって蒼志から見たら私は結婚対象外じゃない」

「俺さ、桜に好きな男がいるの嫌なんだよ。お前への想いはとっくに吹っ切ったつもりだったけど、まだ残ってたみたいだ」

蒼志はビールグラスを手に取り、勢いをつけるかのようにグイグイと飲む。そして話を続けた。

「だからさ、考えたんだ。どうしたら桜と結婚出来るかって。そしたら解決策があったんだよ」

「解決策?」

「あぁ。俺は華月流家元にはなれない。柊木家の跡を継がなきゃいけないからな。だから華月流家元には桜、お前がなれよ」

「えっ……私が華月流の家元に?」

「俺は家元にはなれないけど、華月家に婿入りして桜のサポートはする。呉服屋にいる時だけ俺は柊木姓を名乗ればいいから。それなら桜も柊木家に嫁入りしなくていいし、今みたいに時々呉服屋を手伝ってくれるだけで問題ない」

「でも、私が家元なんて」

「桜ん家の親も何処の馬の骨か分からない奴より、桜が華月家を継ぐ方が安心するんじゃないか?それに俺は桜には家元になる素質があると思うけどな」

私が華月家を継いで家元になんて考えた事もなかった。私の役割は婿養子になってくれる人と結婚して家元になる夫のサポートをする事だと思っていたからだ。
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