許されるなら一度だけ恋を…
「桜さん、こんにちは」

空を見上げていた私は、声が聞こえてきた方を見る。

「……奏多さん」

和服ではなく、私服姿の奏多さんが呉服屋前に来た。ニッコリ微笑みながら私を見ている。

「今日は水色の薄物の着物なんですね」

「あ……えっと、またホームページに載せるとかで今から撮影に……」

これから蒼志と二人で撮影に行くという後ろめたさから、私は奏多さんから視線を外しつつ答える。

「そうですか。水色も良く似合ってます。桜さんは何でも着こなせちゃいますね」

「ありがとう……ございます」

いつも通りの奏多さんを見ていると、昨日の告白は私の夢だったんじゃないかと思ってしまう。

「あれ、奏多さんじゃないですか。京都から戻ってたんですか?」

私と奏多さんが話をしていると、呉服屋から私服に着替えた蒼志が出てきた。

「ええ、少し用がありましてこっちに戻ってきました。今からまた京都に戻りますよ。ではまた」

奏多さんはニッコリ微笑みながら駅の方へ向かって歩き出す。

「奏多さん」

蒼志は歩き出した奏多さんを呼び止めた。

「何でしょう?」

奏多さんは立ち止まり、蒼志の方を向く。

「俺、桜に告白しました。もちろん結婚前提の付き合いを提案してます。まぁ今は返事待ちですけどね」

「……そうですか。どうして僕に報告するんです?」

蒼志も奏多さんも顔つきが変わり、見えない火花が散っているような険悪な雰囲気だ。

私は一人でハラハラしている。
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