それでも、精いっぱい恋をした。


『がんばってることを知って嫌な気持ちになる先生はいないから』



正直、菊井先生のことは好きじゃねえ。

極力しゃべりたくないと思ってるところもあった。


だけどそれじゃ、今までと変わらない。がんばるって決めたんだ。

ぐ、と何かを耐えるように立ち上がり教壇へ向かう。


「…あの、菊井先生、ここ、こう解いたら間違ってたんですけど、どう解いたら良いのか、教えてほしいです」


心臓が、ばくばく動いてる。

無視されたらどうしよう。こんなのもわからないのかと一蹴りされたらどうしよう。ため息をつかれるかもしれない。教えてもらえないかもしれない。…こわい。


勇気を、出したと思う。

それがだめだったらと思うと、こわかった。


「…美島、何かあったのか?」


だけど第一声はそんな予想外の台詞だった。

いつの間にか俯いていた顔を上げると驚いたように目をまるくした表情が視界に入る。


「えっと…わからないことは先生に聞くのが一番だって、人から言われて、…だから、聞きました」


たしかに、そうだよなあって腑に落ちた。

知らないこと、わからないこと、どうしたらいいか、頼れる人が近くにいる。

それが学校。

そんなこともわすれて、敵のように思っていた。


「そうか。その問題は―――」


菊井先生はびっくりするくらいなんてことないみたいに教えてくれた。


授業で使う言葉よりも砕けた言い方をしてくれて、わかりやすかった。なんだよ。あかねくん、これ、うれしいんだな。やっぱり、きみは、すごい。

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