それでも、精いっぱい恋をした。


だけど、だから、なんとなく。


淋し気な横顔。

光が、瞳のなかにきらきらと映ってる。



「なあ、…明日も、がんばろう、な」


きっととてもじゃないけど同じレベルで、同じことを、同じ気持ちで悩んでるわけじゃない。

それでもこのひとは何かに悩んでいる。迷ってる。その漠然としたことだけはわかったから。


明日もがんばろう。
わたしもがんばるから。


この景色を見て、ほかにもがんばってるひとがいることを思い出しながら、がんばろう。

ちゃんとしよう。
いつもそう思ってる。


「……何かに対してきれいだなって、久しぶりに思った気がする」


低い声。しゃべりかけてるのかひとり言なのかわかりにくい。

だけど、常に柔らかい口調。
店員さんにも「ありがとうございます」「お願いします」ってちゃんと言ってた。
それがきっと、彼の人柄。


「そっか」

「連れてきてくれてありがとう。…明日もがんばれそう」

「本当?よかった!」


自分が気に入ってるものを褒められるとうれしい。

彼も少し笑いながらこちらを見下ろしてくる。


「レッドボーイって名前は、やっぱりダサいと思うけど」


脈略へんじゃね?
いまその話する?

ぽかりとパンチすると、少しじゃなくて、いっぱい笑い出した。

よくわからねえツボ。だけど、心地よい空気。

わたしも久しぶりに、深く呼吸ができたような気がする。

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