それでも、精いっぱい恋をした。
こそこそとお饅頭屋に停めた愛車にカバーをつけていると、隣に黒マグナと緑のニンジャが並んだ。ヘルメットからクラスメイトのイワちゃんと1年の頃同じクラスだったホッシーが顔を出す。
「おーす春希」
「おはよー。ふたりで来たの?」
「昨日ホッシーの家でゲームしてたら寝てた」
こいつら仲良いよなあ。ホッシーが電気科に行ったときイワちゃんはちょっといじけてた。
ふたりはバイクカバーをかけない。わたしのほうが愛車愛が強いね。と内心では思ってる。
「あ、そういえば昨日おまえユズ兄のとこにくだんねー理由で行ったみたいじゃん」
げ。バレてる!あの兄弟本当に嫌いだ。兄貴はとにかく口が軽い。
「仕方ねえだろ、レッドボーイの一大事かと思って焦ったんだから…」
だいたいあのゴミなんなんだよ。ホコリ?それともいたずら?もしレッドボーイにいたずらするやつがいたらぶっとばして火に炙るね。絶対許さない。
レッドボーイは高校に入学する前からバイク屋で目をつけていたもので、半ば強引に取り置きしてもらったくらいお気に入りだ。
同じCB400SFだって同じ色だってレッドボーイの代わりは務まらない。
あの男の子にはダサいって言われたけど…名前だって買う前から決めてたんだ。シンプルでかっこいいじゃねえかよ。ちょっとイケメンだったからってふざけんなよあいつ。
「…なあ、…ほかにもなんか聞いた?」
まさかとは思うけど。
口止めしたけど、でも。
にやーっとした顔がふたちこっちを振り返る。
「春希、付属高校のやつと付き合ったらゴウスケたちに何言われっかわかんねーぞ」
「野球部いっつもあそこに負けてるらしいからな」
「ま、サガミから聞いたから今頃教室中に広まってっと思うけど」
最悪だ。
口が軽いやつしかいない。
というか人をおちょくりたいだけのやつらって言ったほうがぴったりだ。